明日キミに聴かせたい

「いってらっしゃい」と玄関で母に見送られて私の足はもうすっかり軽やかに道を歩けるようになっていた。

すれ違いざまに聞こえる人の声も気にせず、信号待ちで同年代の子たちの笑い声に肩が震えることもなく私は顔を上げてしっかりと前を見て信号が青に変わればしっかりと一歩を踏み出せた。


「はぁ」


引きこもる前に最後に外の空気を吸った時は自分の事ばかり、ただ苦い。重苦しい。恐怖が常にまとわりついているようで息を吸うのも忘れるほど毎日の空気なんてなんとも思わなくなっていた。

外に出ることもしないまま過ごしてきた中で、今こうして冷たくて少し痛い風を肌に感じながら吸い込んだ冷たい空気があの日々より美味しく感じた。


花瀬先輩と肩を並べて歩いた道を歩きながら私は、先輩の事を思い出して少し頬がぽかぽかした。


「白神さん?」


その声に振り向いた時、私の足はピタリと動かなくなって、通り過ぎる人が急に立ち止まった私の肩にぶつかって迷惑そうな顔をした。

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