リングサイドブルー
「でも、そうやって支えられてるから、旦那さんも精一杯頑張れるんすよね」
 千晃は一般論を持ち出して、自分の家庭の事情をかわした。

「自分のことでいっぱいいっぱいで、ぜんぜんそんなこと考えてなさそうだけど」

 ため息混じりの愚痴を聞いたり、互いの子供の話をしたりしながら、縁がないであろう資料室や、ゴミ捨て場まで回って、ミーティングルームへたどり着いた。プロジェクトのキックオフはここで行われる。

(どうなることか。ただ今日ここに来いって言われただけで、それ以外なんの情報もねえし、下準備すらしようがないというか)

 予定時間まであと十分。頭を次に切り替え始めると、首藤と話をしているうちに解けてきていた緊張が、またぶり返してくる。

「ありがとうございました、すみません色々と」

千晃は頭を下げた。それからミーティングルームに向かおうとしたのだが、首藤の足は動かなかった。視線を向けると、薄い唇が控えめに開いた。
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