リングサイドブルー
「千晃、ごめんね。仕事中なのに」
「今どこにいるの。随分賑やかだけど」

「実は、心暖がどうしても『パパに会いに行く』ってきかなくて。いま、心暖と一緒に会社の近くにきてるんだけど」

「ええ?」千晃は眉根を寄せた。

「上のほうがガラス張りになった白いビルよね。千晃、ほんのちょっとだけでいいんだけど下に来れない?」

「急にそんなこと言われても」

 このままこっそりとエレベーターに乗って降りればいいのだろうが、泣いている心暖と会えばすぐに戻れるはずがない。

かといって、子供の話を出せば、それが勉強不足の言い訳のように思われてしまうかもしれない。それでは、環境を変えて学ぼうとした意味がない。ハンデは欲しくない。

「千晃、拓斗くんって知ってる?」

 聞き覚えのある名前だった。先日保育園に入ったばかりだと言っていた男の子だ。帰り際に母親と話もした。
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