リングサイドブルー
見て見ぬ不利をしてやり過ごしてきたが、道を歩いているときや、絵本の中でも、心暖が母親という存在を見つめていることには気づいていた。だから、これまでの会話とはなんの脈略もなかったが、近いうちに訊かれるだろうと覚悟はしていた。

 うまく伝わらなかったとしても、嘘だけはつきたくなかった。拓斗との喧嘩の理由にもなっているからだ。
 千晃は頭の中でよく言葉を選んでから、口をひらいた。

「ママはね、遠くにいるんだよ」
「なんで?」

「……パパはママと喧嘩したんだ。昔のパパは、自分が悪かったな、って思ってもごめんなさいが言えなかった。あとから謝ろうとしたんだけど、そのときにはもうだめだったんだ。それで、ママは遠くにいってしまったんだよ」

「とおくって、どこ?」
 分かる言葉を拾いながら、心暖は懸命に理解しようとしている。
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