リングサイドブルー
一日預かってもらったことへの謝辞を述べて、ようやくステラを後にするころ、ちょうど空は夕焼けに赤く染まっていた。千晃は小さな手を引いて歩き始めた。

 夕飯の献立は頭の中で完璧に組みあがっている。それをどんな手順で料理するのがいちばん効率がいいのかを考えていると、心暖が足を止めた。ぱっと手が離れて、千晃は振り返った。

 心暖の視線は一面ガラス張りの路面店に向けられている。店内の半分がイートインスペースになったこの店は、素材の甘みを生かした、優しい味の洋菓子が人気で、この地域では有名な店だ。

「パパ、ロールちゃんあるよ」

 心暖は小さな瞳をきらきらと輝かせている。たっぷりの生クリームとフルーツが入ったロールケーキは店の看板メニューだ。夕方には売切れてしまっていることが多いというのに、珍しい。

「でも心暖はロールちゃん食べると、夕飯残すからなあ」
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