箱入り娘に、SPを。
ハッハッハッと底なしに明るい笑い声を響かせて、私と彼はポイッと部屋を追い出された。
まだ部屋の中からは、汚らしい笑い声が聞こえてくる。
見えてはいないだろうが、全力でタヌキ親父のいる部屋のドアをこれでもかと睨みつけていたら、隣でのんきに彼が笑った。
「……あはは、ごめん、笑っちゃいけないんだろうけど、どうしても笑っちゃう」
「─────刑事さん、笑い事じゃないですよ。あなた、本来のお仕事させてもらえないんですよ?こんな小娘のSPなんて嫌でしょう?」
「え?なんで?別にいいよ、これも仕事のうちなら」
彼はまだ笑いを堪えきれないようで、少し肩を震わせたまま言葉を続ける。
「いやあ、でもいいもの見ちゃったなあ。警視総監があんなキャラだったなんて。最高だね、お父さんがあんな感じで」
「冗談きついです…」
げんなりする私をよそに、彼は思い出したように手をぽんと叩くと床に向かってを人差し指をさした。
「そうだ、言い忘れてたんだけど。君の友達が下の部屋で待ってるよ。クラブで先に逃がしてあげた子」
「あっ、梨花!」
「あのクラブは前々からクスリの売買が盛んで、目をつけてた場所のひとつで。今夜は一斉摘発のあたり日なの。君はある意味、すごいタイミングでお友達と訪れたんだね」
何も言っていないのに、自然に彼が梨花のいる場所へと案内してくれることになった。
すたすたと歩くその後ろを慌ててついていく。
たまに家に来る若手の警察関係者は、私から見ても父にヘラヘラとゴマをするような下心見え見えのやつらが多かったから、なんとなく前提で彼もそういう風に見ていたけれど。
彼はまずもってそういう空気を出さない。
警視総監の娘である私に気を遣っているようには見えないし、気に入られようと下手に出るわけでもない。
とにかく、自然、普通。
これは、私にとってはものすごく大きいことなのだ。