箱入り娘に、SPを。
「じゃ、僕はもう行くね。とりあえずなるべくたくさん救急車呼んでおいて。ここから先、また全員ぶん投げていくから」

「ぶ、ぶん投げ…!?」

ぽかんとしている私の横で、律儀に言われた通りに意識確認していたらしい近藤くんが「錦戸さーん!」と呼んできた。

「意識はないですけど、生きてそうです!救急車ですよね!俺、まず連絡します」

「う、うん。お願い」


一瞬、近藤くんと話しただけなのに、振り向いたらもう三上くんはいなかった。

幻?
はたまた、夢?
ってくらいに、彼はすぐいなくなってしまった。



救急車を手配して、私と近藤くんは大急ぎで三上くんを追いかけた。
行く先行く先で、バッタバッタと大の字に倒れている男たちがたくさんいた。

嘘でしょ?
これ全部、三上くんがやったの?

脈を確認したり、頬を叩いて意識を確認したり、そこそこたいへんな人数は倒れていた。


「三上さんって、格闘技とかやってるんですか?」

素朴な近藤くんの疑問に、私は答えられない。

「いや…知らない……」

そう、私は知らないのだ、彼のことをなにも。

私が知っているのは甘いカフェオレが好きで、隙間時間にベンチに座ってコンビニのプリンを食べている彼。
真面目に仕事をしている姿ももちろん見てきたが、こんな隠しコマンドみたいなのを持っているのは知らなかった。


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