箱入り娘に、SPを。
迷路は続くよどこまでも


父親が警視総監とはいえ、私はこれでも仕事をしている。

大学時代に就職活動をすることになった時に、父は当然のようにこう言ってきた。

「就職の斡旋はお父さんに任せろ。ほら、働きたいところはどこだ?今すぐ言いなさい。明日にでも電話してやるから」


……これが警察のトップに立つ人間の言うことなの?

数多くのやらかしをしている父に、就職のことまで任せるわけにはいかない。
私は就職活動の話を家では一切せず、内定をもらってから家族に初めて話をした。


「書店員!?」

「そう、書店員」

「書店員……か……」

とある大手の書店に正社員で採用されたことを告げた時、母は喜びはしたものの父はなんだか不満そうな顔をしていたのを、今でも思い出せる。

なにが書店員か、だ!

本はもともと好きだったし、小説も漫画もわりとなんでも読んでいたし、気になることがあれば旅行誌を買ったり、流行に乗りたい思いからファッション雑誌だって毎月買っていた。

本屋とはじつに身近にあるものなのだ。


派手ではないが生活になくてはならない本の仕事がいいな、と採用試験を受けたところ、やっと受かったのが今の会社。
新入社員として配属になった、若者で賑わう中心街にある店舗。

膨大な数の本が存在するその店舗で、私はせっせと毎日働いていた。


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