箱入り娘に、SPを。
彼が私の警護について二週間。
“振り切る”という行為を幾度となく試みたのだが、見事に一度も成功することはなかった。
ある程度いったところで後ろを振り返り、「よし、ついてきてないな」とホッとひと息ついた瞬間、ひょこっと彼が現れるのだ。
「もー、いきなり走り出すとびっくりするからやめてよ。見失ったら警視総監に怒られるのは僕なんだよ」
そう言って、はあはあと息切れしている私とは対照的にまったく息を乱さずにこりと笑う。
ある時は、気づかれないように職場を裏口から出たこともある。
またある時は、トイレに行くといって違うところへ行ったこともある。
またまたある時は、わざと満員電車のタイミングで乗車してうまいこと人混みに紛れたこともある。
それでも彼はまったく戸惑うことなくついてくる。
「私のプライバシーはいったいどこへ……」
ぼそっとつぶやいた私をよそにマキさんは頬杖をついて、でもさあ、と楽しげに口の端をくいっと上げた。
「いいじゃない、今回の彼。ずーっと美羽ちゃんの担当って、くたびれたおじさまだったでしょ?今回は若いし、なかなかの好青年じゃない」
「それは僕も思ってましたよ。折笠さんのお父さんはいったいどういう風の吹き回し?」
「…………あの人がそばにいたら、私には男が寄ってこないだろうって……」
「なにその理由!面白すぎる!」
大爆笑する二人に、信じられないでしょう?と同意を求める。
「私、もう、一生結婚できないんですよ!!決まりです!」
「そんな人生捨てたようなこと言っちゃだめだよ、折笠さん」
「捨てたくもなるんです!あの父親がいると!」
はぁぁと長くて深いため息をついて、のろのろとイスから立ち上がる。
もう休憩時間も終わりだ。
二人の姉兄に見送られながら、私は「行ってきます…」と力なく休憩室を出た。
そのまま店舗へ向かうと、すぐにお店の一角で雑誌を立ち読みしているスラリと背の高いスーツ姿の男性が確認できる。
彼は出会った時から、本当になんてことのない、普通のひとだ。
ヘアスタイルもどこにでもいそうな短髪だし、これといって特徴のある部分などない。なにも知らないまっさらな状態で彼を見たとして、とてもじゃないが警察官には見えない。
ビジネスマンを装っているらしく、手には黒い鞄も携えているのだから溶け込み方がうまい。