箱入り娘に、SPを。
「あの、ちょっといいかな。バッグの中に……」
小太郎さんのアドバイス通りにお店を出てから少年に声をかけたのに、彼は私の顔も見ずにいきなり駆け出した。
「あ!待って!」
急いで追いかけるも、距離は縮まるどころか遠くなる。
人通りが多いのも相まって見失いかけていた。
私だって十年前はわりと足は速い方だったんだけどな、やっぱり体力の衰え?
……と、半ば諦めながら追いかけていると、少し先で小太郎さんがさっきの少年を確保していた。
「残念でした。現行犯です、君」
未成年だからだろう、優しい話し方ながらも小太郎さんは容赦ない。
暴れる少年の腕をあっさりと締めて、軽々と持ち上げると「じゃ、お店に戻りましょうか」と私に言うのだった。
「もっと、体力つけないとだめですね、私…」
せっかく教えてもらっても万引き犯を捕まえられないからという意味で言ったのに、小太郎さんはそうとらえなかったらしい。
「そうだね。でも、美羽さんが僕から逃げるのは諦めた方がいいよ。僕、短距離も長距離も得意なんで」
「……………………でしょうね」
「はい。悪しからず」
…なんか、すっごい悔しいんですけど!!
ということで、私の社会人生活の中で初めての習い事は、ジムになったのは言うまでもない。