箱入り娘に、SPを。
「今日のことは、お父さんに報告させてもらうね。僕の失態だから」

「やめて!!」

何気なく言った小太郎さんの言葉に、即座に抗議した。
ちょっと驚いたような目が向けられているのは承知の上で、やめてくださいと繰り返した。

「父には…知られたくないです。痴漢なんて、どんなに大騒ぎするか、想像しただけで怖いです」

「でも」

「お願いします!」

道端で頭を下げた。
「ちょっと!美羽さん!」と焦ったような小太郎さんの声だけが聞こえる。

「小太郎さんだって、父に何を言われるか」

「僕のせいなんだってば」

「違うから!とにかく言わないで、お願い!」

ほぼ無意識に彼に詰め寄ってしまっていた。
ものすごく困ったような彼の表情がよく見える。

「…分かった。今回だけ、だからね」

渋々ながらも了承してくれた彼に「ありがとうございます」と、やっと身体を離す。


「頑固だなあ」と苦笑いした小太郎さんは、私になにやら手を差し出した。

「荷物、持つよ。重そうだし」

「そんなことは」

言いかけているうちに、荷物を取り上げられた。
ジム用の着替えが入った大きい方のバッグだ。

「少しくらい、僕を頼ってくれてもいいんだよ」

やけに響くようなその言葉に、吸い込まれそうになる。けれど、彼が放っているのはあくまで、“警護対象”である私に投げかけている言葉。

なにやら苦しい気持ちにさいなまれているうちに、マンションが見えてきた。


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