箱入り娘に、SPを。
─────すると、マンションのすぐそばの街灯にうずくまっている人がいるのを見つけた。

ここからではよく見えないが、白髪頭の老婦人のようだ。

「どうしましたか?大丈夫ですか?」

お腹をおさえて今にも倒れそうな女性を抱き起こして、声をかけてみる。
小太郎さんも駆け寄ってきて「救急車呼びますか?」と問いかけていた。

「あぁ、いえ、大丈夫です。今から急いでコンビニで振込みに行かないと…息子が」

振込み?

私はすぐに小太郎さんを見上げる。目が合う。
彼もまた、もういつものふにゃっとした顔ではなく、警察官の顔になっていた。

「あの、失礼ですがなにか事情がおありで?」

私が支えながら尋ねてみると、女性は何度かうなずいた。

「今…地方に住む息子から電話があってね。急ぎで三百万円が必要だって言うから…。なんだか不安で胃が痛くなっちゃって。でも大丈夫です、行かなくちゃ」

彼女が持っているバッグに札束が入っているように見えなくもない。

「あの、それ…本当に息子さんですか?」

「えぇ、間違いないです。声が息子だったので」

確認のために聞いたのだが、確信を持ってうなずく女性の真剣な眼差したるや。
『詐欺かもしれない』という可能性を、微塵も疑っていない様子である。

「振り込んでくれって言われたんですか?」

「はい…でも限度額があるから、色々なATMから分けてほしいって」


それ、絶対に詐欺!!

と言いたい気持ちをグッとこらえ、どうしたものかと小太郎さんに目配せすると、彼はうなずいて見せた。

「では奥様。まずは奥様の携帯電話から、息子さんへ連絡してみましょうか」

「え?」

「金額を確認してみましょう。一桁間違っているかもしれませんし。三百万は多すぎると思いませんか?もう一度、確認のために息子さんへお電話してみましょう」

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