虚愛コレクション
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今日は彼とデートだ。恋人ごっこだ。
けどこれが、何て事ない日ならまだしもクリスマスに相手してくれるのは驚きである。認めたくはないが、彼には相手など沢山いる筈なのだから。
誰とも約束がなかったのだろうかと疑問に思うも、関係ない。
「で、何処行くの」
街中を歩幅の違い故に半歩の距離を開けて歩く。迷いなく歩くので目的でもあるのかと思いきやどうやら違うらしい。
「せっかくなので、透佳さんにお任せします」
目先でフワフワと靡く黒いマフラー。掴めそうで掴めないそれは彼みたいだ。
ふと、マフラーの動きが止まった。つまり、彼が止まった事を示し、私も遅れて止まれば危うく彼にぶつかりかけたのだが、彼は私を気に掛ける事もなく、腕を持ち上げる。
「じゃあ、あそことかどう」
腕の先を見れば指していたのは映画館。
「映画、見るんですか?意外ですね?」
と言うのも、彼がテレビすら見ている事も希だったので、ましてや映画に興味がないと思ったのだ。
人が行き来するのを見ながら映画館付近に貼られているポスターに目をやる。
小説が原作の映画に、人気漫画の実写映画、俳優が話題の映画、アニメ映画なんてのもあった。
「何か見たいのある?」
意外な事に意志を尊重してくれるらしい。