虚愛コレクション
一通り、ポスターを見た中で目を引いたのはあったが、私は首を横に振った。
「ごめんなさい。私、映画館で見るより家でゆっくり見たいタイプなんです」
「……なんだ。珍しく気が合うね」
少し言いにくく、うざがられてしまったらどうしようと危惧していたのだが、意外や意外、あっさりと身が引かれた。
もしかすると、元々行く気などなかったようにさえ見えてくる。が、どちらでもいいものだ。
「じゃあ、無難に水族館ね」
今度はどうやら決定事項らしく、さっさと歩き出す。私も慌てて動きだし、後を追った。
「水族館なんて、デートの定番ですね」
「定番、ね。あんな魚見るだけの場所、何が面白いんだろうね」
それを言ってしまえば、大抵の場所が彼にとって面白味に欠ける事になる気がするのだが。
「なら、どうして水族館なんですか?」
こんな日にそんなつまらない場所に行く理由は何か。
彼はただただ、ポケットに手を入れながら前だけを見て歩いていた。そして、変わらない声量で、性質で、淡々と事務的のように言う。
「アンタが好きなんじゃないかなって思ったから」
言われて私が酷く心踊らせる事を知らないのだろうか。