虚愛コレクション
真剣だと言う事か、やはり構っている余裕などないのか。
黙々と手だけを動かし、時折傍らに置いてあるノートパソコンやら資料と思われるものを覗き込んでいた。若干疲れているようにも見える。
課題と言えば大学のものか。忙しそうにしていたのはこのせいのだったのか。邪魔しちゃ駄目だな。と目の前の状況も相まってはっきり理解。
何か言葉を返せる筈もなく、部屋の隅に腰を下ろした。
縮こまるように膝を立てて座り、その膝に顔を埋める。ゆっくり目を閉じた。
「……」
肌に触れるのは彼の服。私には大きすぎる借りた服からは、染み込んでしまったのだろうか消毒液のような臭いが混じっていた。
ああ、でも、これが彼の匂いだ。いつもこの匂いが麻薬みたいに鼻腔をくすぐって思考を乱すのだ。
暫くそうやって、黙って待ち続けていれば制服の乾燥が終わり、再び制服に着替えた。
邪魔になる事は分かり切っていたので、早々に退散することにした。
また、日を改めて来よう。
そうすれば、彼は上辺だけでも私をみてくれるだろうと淡い期待を描きながら、黙って彼の部屋を後にした。