虚愛コレクション
「私、傘忘れてたんですね」
「そう、忘れてたよ」
おかげで、外に出るハメになった。そんな事でも言いたげなうざったそうな声色。
だけど、わざわざ届けてくる義理など無い筈だ。
私が借りたもので、困るのは私だけなのだから。それに、どうして私がこっちの道を歩いている事を知っていたのか。
前回通りなら、こっちとは無縁の方向だと言うのに。
「私が此方にいるってよく分かりましたね?」
「部屋から見えるんだよ。アンタの姿」
なるほど。そう言う訳か。確かになかなか見通しが良いマンションに彼は住んでいる。
だが、それにしたってどんな視力をしているんだ。私じゃきっと見えない。
彼の部屋から見えたからここに来てくれたと言う事は、つまり
「人通りが少ないからって私の事心配してくれたんですか?」
だって、傘ごときを彼が届けるとは到底思えなかった。
茶化すように言った所で彼は特別な反応を見せる事なく、ひょいっと水溜まりを避けて言った。
「まさか。俺は俺の心配をしてるだけだよ」