虚愛コレクション
「あの……」
「ん?」
声を掛けて、振り向いたのを確認してから、相手の前にまで回り込む。
声を掛けておいて何だが後ろ姿だけでは確信が無かったので、此方を見た顔が見知った顔でホッとした。
「ああ、昨日の子だー」
間延びしたような喋り方。昨日と雰囲気が違う様な気もしたが、たった一瞬会話しただけじゃそんなものだろう。
ともあれ。
「顔、覚えてくれてたみたいでホッとしました。傘、返そうと思って。ありがとうございました」
ペコリと丁寧にお辞儀をしてお礼を述べる。顔を上げれば、何故だか相手はククッと笑いを堪えるようにしていて、首を傾げてしまった。
「あの……?」
「や、そこまで丁寧にしてくれると思わないじゃん?――……いえいえ。こちらこそ、どういたしまして」
おどけたようにしながらも、私と対応するような受け答えで、傘を受けとる。その間も終始笑顔。悪い気にはならない。
傘を受け取り壁に立てかけた後、相手は自分の隣の床をペチペチと叩いた。
「折角だし、隣に座って話とかどう?」
笑顔に釣られて意味のない笑みを零してしまうほどに、惹き付けるものを持っていて、まあいいかと余り深く考えずに言われるがままに隣に腰を下ろした。