雨宿り〜大きな傘を君に〜
「それから彼女は俺に付き纏うようになった。大学でも外で友達といる時も、常に彼女の視線を感じていた」
崎島との問題を自身で解決すると言った日、
先生は『人の好意ほど、怖いものはないよ』そう言った。有明沙莉さんのことがあったから、私に忠告してくれたんだね。
「彼女の俺に対する憎しみや嫌悪、そういうものを日々感じていた。だから俺は彼女に聞いたんだ。俺にどうして欲しいって。君を愛すこと以外だったら、なんでもするって言ってやった」
「それは…」
「火に油を注ぐようなものだろう?」
苦笑した後、先生は明るく言った。
「私が未来を奪われた分、あなたも夢を捨てて。それが有明の返事だった。だから彼女に二度と俺に近付かないよう約束させる代わりに、俺もまた教師になる夢を諦めた」
教師。
それが菱川先生の夢。
「本当にそれから有明とは会っていなかった。あの電話で3年ぶりに話したんだ」
菱川先生は知らないだろうけれど、きっと有明沙莉さんは先生のことが気になって、時々監視していたに違いない。そうでなかったら、私が先生と暮らし始めたことを彼女が知るはずがないのだから。
そのことを敢えて先生に報告する必要はないだろう。心配させたくないし、なにより彼女の名誉のために言わない。
「だから君をこの家に連れて来た日、中途半端は止めようと思った。君が一人立ちできるその日まで、そんな期限を決めずに君が望む限り、力になりたいと思った」
そういうことか。
最初から先生は私に優しかった。
有明沙莉さんと、私のことを重ねていたんだね。