雨宿り〜大きな傘を君に〜
菱川先生自身がまだ有明沙莉さんとのことを引きずっている。
「話してくれてありがとうございます。でも私は、有明沙莉さんではないです」
「そうだね」
きっと緒方さんは私のことを気にして、ルールを作ってくれたんだね。
それでも聞けて良かったと思う。
「次から私にキスされそうになったら避けてください。私自身の弱さのせいで先生にすがりつきそうになったら、少し乱暴でもいいので引き剥がしてください。それが私のために先生ができることです」
「ハナちゃん…」
「有明沙莉さんとのことを踏まえて、先生は私を一生守ってくれようとしているのかもしれないですけど。間違っています。有明さんの時も、私の時も、先生はきちんと突き放すべきでした。偽りの優しさを与えず、その気がないことを態度で示すべきでした」
菱川先生は目を閉じた。
本当は辛らつなことを言いたくないけれど、私のために、彼のために、先を続ける。
「菱川先生のしていることは、私たちを傷付けるだけです。有明さんはたくさん苦しんで、結果、先生を憎むことしかできなかった。本気で好きだったから、笑顔でお別れできなかったのだと思います」
「……」
「私はそうはなりたくないです。大好きな先生を大嫌いにはなりたくないです。だから、今ここで私のことは興味ないと、はっきり言葉で示してください。いつものように甘やかすのではなく、男らしく突き放してください 」
目を開けた先生は無表情で私を見た。
「恋人や友達になれなくても、許されるのであれば先生のことを本当の兄のように慕いたーー」
「許さない」
私の言葉を途中で遮った先生に、鋭い視線を向けられた。
昨日、崎島と一緒にいるところを見られた時と同じ、冷たい目だ。