雨宿り〜大きな傘を君に〜

小走りになりながら、緒方さんと並ぶ。


「前祝いって、なんのお祝いですか?」


「托人の誕生日だ」


「え?」


思わず足を止めてしまうと、あっという間に距離が開く。


「土曜日は奴の26回目の誕生日だった。そんな日におまえを買い物に誘った奴の気持ち、少しは汲んでやれよ」


土曜日ーー1月26日が先生の誕生日?



「なんで、教えてくれなかったんですか?」


全力で追いかけて、緒方さんの前に立ち塞がる。


「退け。おまえが気を使うから、言うなと口止めされていたんだよ」


「こっそり教えてくれても良かったじゃないですか?」


「朝から喚くな。おまえは向こうだろう。付いてくるな」


角を曲がった先にある本屋を目指す緒方さんは面倒臭そうに私を振り払う。


「言ってくれたら、友達より先生との用事を優先したのに…」


「だから、そういう気を使わせたくなかったんだろ。しっかり勉強しろよ」


本屋に着くと緒方さんは振り返りもせず、立ち去った。


残された私はただただ後悔した。

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