雨宿り〜大きな傘を君に〜

土曜日、何をしていたか先生に聞いた時、映画を見に行ったと言っていた。

さすがに誰ととは聞けなかったけれど、もしかしてひとりで過ごしていたのだろうか。

何も知らないとはいえ、崎島と出掛けていた私を見てなにを思っただろう。



高校の数学の授業は上の空だった。

菱川先生の授業のような分かりやすさはなく、淡々と公式を提示されてそれに当てはめるだけの退屈な授業。受験への備えは十分だろうけれど、少しも覚える気になれなかった。



あっという間にお昼になり、次は先生へのプレゼントに悩む。

過ぎてしまった時間は取り返せないけれど、せめて気持ちだけでも伝えたい。

でもなにをあげたらいい?


こんな時に相談できる友達がいたら良いけれど、クラスメートはまるで私の存在など見えていないかのような対応だ。
積極的に話しかけようとしなかった私が悪いのだけれど。


唯一の相談相手は崎島だけれど、今回は彼に話すことは気が引けた。

菱川先生に渡すものを崎島に考えてもらうってなんか違うよね…。


とりあえず、
なにか菱川先生の欲しいものを知っていますか?
そう緒方さんにメールを入れた。


アパートで暮らしている時は頻繁に連絡をくれていた緒方さんだったけれど、一緒に住み始めてからは一切連絡を取らなくなった。家を空けることは多いが数日待てば話はできるし、なによりあの緒方さんだ。メールなど面倒くさいと思っているに違いない。そんな人が私のためにメールを送ってくれていたと思うと、感慨深い。

もし緒方さんから幾度となく届くメールがなかったら、あの日、助けを求めることもなかった。
菱川先生と、塾以外で話すこともなかったのだ。


「自分で考えろか…」


だから冷たい返事が届いても、仕方ないと思えた。


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