雨宿り〜大きな傘を君に〜
バレンタインデー当日。
夜はチョコレートフォンデュが有名なお店の予約をとってある。
緒方さんと、菱川先生には特に気合いを入れてハート型のチョコレートを作った。
綺麗にラッピングをしたところで、リビングの扉が開く。
「あれ、ハナちゃん。早いね」
「おはようございます」
「甘いね。チョコレートかな」
キッチンに漂う甘い香りに、菱川先生は察したようだ。
「先生には帰ってからお渡ししますね」
「楽しみにしておく。洗い物でも手伝おうか?」
カウンターからこちらを覗き込まれる。
「大丈夫です。後は塾で配るチョコを包んで終わりですから」
「そっか。塾の子たちとも仲良くなれて良かったよ」
「崎島のおかげです」
「それじゃぁ崎島に本命チョコか」
「え?」
カウンターを挟んで少し重そうな瞼の先生を睨む。
「本気で言っているんですか」
先日のスーパーから少し引っかかっていた。
「私が誰に本命チョコを渡したいか、先生が1番よく知っていますよね」
身を乗り出して部屋着の襟首を掴んだ。