雨宿り〜大きな傘を君に〜

「まぁ菱川先生には本命チョコをもらう予定の女性がいるかもしれないですし、その方との予定を優先してもらって構いませんよ」


「朝から、怖い顔」


強い口調で言ったはずなのに。
早朝に似つかわしくない爽やかな顔で、私の手を剥がした。


「客観的に見て崎島と、いい感じなのかなって」


「本当に分かってないですね」


「それで君は今夜の予定をどうするつもり?」


「菱川先生次第です」


意地悪だ。
楽しみで眠れなかった私の気持ちなんて知りもせずに。

先生との約束が無くなったら、例年通り特別なことをするわけでもなくバレンタインデーを終えるだけだ。


「俺の好きにしていいの?」


「…はい」


「それじゃぁ8時半に予約したお店で、ハナちゃんと美味しいものを食べようかな」


心のもやもやを吹き飛ばすほどの温かい笑顔を浮かべた菱川先生の返事に、大袈裟に頷く。



「崎島には、義理チョコでいいよ。ね?」


さらに私の心を揺さぶる、ウインクまでしてきた。

朝からの大サービスに頭がついていかない…。もしかしまだ夢を見てる?

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