雨宿り〜大きな傘を君に〜
緒方さんは学生の論文発表会があり、昨日から家を空けている。本当に忙しい人だ。
いつものくたびれたスーツを着込み、再びリビングに戻ってきた先生は天気予報を見ている。
「菱川先生、あまったチョコでホットチョコを作ったのですが、飲みます?朝から甘すぎますよね…」
「いや脳の回転が早くなりそう。頂こうかな」
「はい!」
先生愛用の深緑のマグカップにホットチョコレートを注ぐ。
「意地悪言って、ごめんね」
「なにがです?」
マグカップを手渡すと、菱川先生はテレビの音量を下げた。
「崎島と上手くやってそうだから、つい口出した。たぶん彼はいい奴なんだよね。俺の講義を全く聞いていないことは大幅な減点だけど」
「崎島にも同じことを言われました。私が菱川先生のことを好きなんじゃないかって」
「ハナちゃんはなんて答えたの?」
「否定しました。認めてしまったら先生に迷惑がかかると思って」
「そっか」
いくら崎島が大切な友達だとしても、言わない方がいいこともあるよね。
「うん、美味しい。ありがと」
それから出勤時間まで余裕があるからと、菱川先生は洗い物を手伝ってくれた。