雨宿り〜大きな傘を君に〜
待ちに待った放課後。
校門を飛び出した早さであればきっと1番乗りだったと思う。
自宅から運んだケーキをお店の方に預けると、素敵なバレンタインデーになりますね、と優しい声をかけてくれた。
初めてひとりで乗るタクシーもタイミングよくすぐに見つかった。
タクシーは菱川先生とずぶ濡れで乗ったあの日以来だ。懐かしいな。
最初の講義まで時間がなかったため、塾の裏口で降ろしてもらった。
よし。間に合った!
菱川先生からもらった腕時計は、講義まで後3分あることを指している。
裏口からこっそりと中に入り、
滅多に誰も通らない中庭から聞こえた話し声に、足を止めた。
「菱川先生、受け取ってください」
「困ります」
眼鏡をかけた菱川先生に紙袋を差し出す人物はーー佐渡先生だった。
3分しかない。
そう分かっていたけれど、立ち去るわけにはいかなかった。