雨宿り〜大きな傘を君に〜

教室に滑り込むと崎島が笑顔で迎えてくれた。


「おまえが遅刻なんて珍しいな」


「高校で先生に捕まっちゃって」


崎島への義理チョコは、ない。
菱川先生に誤解されたくなくて、家に置いてきた。後で自分で食べる予定だ。


そんな私の気も知らないで、先生がチョコレートを受け取っていたことが信じられない。渋々でも、受け取ったら同じだ。


「大変だったな。で、大野、マジで今日来ない?」


歴史担当の講師が教室に入ってきたため、崎島の声は徐々に小さくなっていく。


「1時間だけでもどう?」


「ごめん。高校の課題もあるから、そんな余裕ないや」


「ちぇ、残念」


大勢でご飯を食べることは苦手だけれど、何度も誘ってくれているのだし、崎島たちと今日を過ごせば良かったのかもしれない。最初から。


特別な日を2人で過ごしてしまえば、単純な頭はその先を求めてしまいそうで怖い。

つまり、菱川先生に私を好きになって欲しい。そんな馬鹿げたこと望みそうでーー止まらなくなったらどうしよう。


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