雨宿り〜大きな傘を君に〜
互いに箸を進めながら、ゆっくり会話をする。
「先生、お酒は飲まれないのですか?」
ワインを注文するお客さんが多い中、先生は私と同じ林檎ジュースを飲んでいる。
「ありがとう。でも今日はいいや」
「私に気を使っているなら…」
お店からの帰り道は徒歩で車を運転するわけでもないのだから、好きなものを飲んで欲しい。
「気なんて使ってないよ。ただ今日はハナちゃんに付き合ってジュースで良い気分なんだ」
「私はお酒が飲みたいですけどね」
「後4年待ったら、お酒の美味しいお店にエスコートするよ」
4年ーー先生はさらりと口にしたけれど4年後、いや1年後すら、私たちがどうなっているかは分からない。
母との生活がそうであったように、別れは突然に訪れるものだ。
「4年後、私はどうなっているのでしょうか」
「さぁね。大学生になっていても、別のことをやっていても、君らしい日々を送っているはずだよ」
自分が何者になっているか、ということにはそれ程興味がない。
ただ、傍にあなたがいるか。
それだけが気になっているんだ。
少し前の私は母の想いだけを背負って生きていこうと決めていたのに、人は変わるものだね。
菱川先生が私を変えたんだ。