雨宿り〜大きな傘を君に〜

私がチョコレートフォンデュを堪能している間に、先生はひとりでチョコレートケーキを完食してくれた。

決してミニサイズでないケーキを食べ切ってくれた優しさに、先生よりも私が喜んでいるだろう。


「ご馳走様でした。甘さ加減もスポンジの柔らかさも絶妙で、とても美味しかった。いくらでも食べれちゃうよ。また作ってくれる?」


「こんなので良かったら、いつでも」


「次は一緒に作ろうか。チョコを溶かすくらいなら俺にもできる」


私より料理が上手い先生の謙遜は聞き流して、頷く。


「でも朝早くから準備してくれたんだよね。眠くない?」


「全然眠くないです」


「もしかして授業中寝た?」


からかい口調だ。


「寝てないですよ。講義もちゃんと聞いてました」


上の空だったけれど。
高校の授業以上に、塾の講義がーー裏口で見てしまったことを伝えたら、菱川先生は隠さずに打ち明けてくれるだろうか。

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