雨宿り〜大きな傘を君に〜

ウエイターにお礼を言って外に出る。

温かい店内から冷たい風を受けた瞬間、魔法が解けたような気がした。


家に戻って真っ先にチョコレートを渡すとすれば、先生は私と佐渡先生のどちらのチョコから口にして、どちらを美味しいと思うのだろうか。


「せっかくだからイルミネーションを見ていく?」


胸ポケットに眼鏡は収められて、先生の綺麗な瞳と目が合う。答えなんて考える前から決まっている。


「先生さえ良ければ」


返事はなかったけれど、家に続く近道ではなく遠回りをしてくれていた。




「お父さんとお母さんに手を引かれてはしゃぐ子供連れとか、幸せそうな恋人たちとか。なんか良いですよね」


前を歩く2組のカップルは寒さから逃れるように相手と寄り添い、至近距離で笑い合っている。
どちらも私には手に入れることが難しいから、余計に憧れは強くなっていく。


「どうぞ」


コートのポケットから手を出した先生は私の冷たい手をとってくれた。


「……塾の誰かに見られたら、どうするんですか」


握られた手に、触れた体温に平気なフリをして抗議する。


「手なんて繋いでたら、言い訳しても誰も信じてくれませんよ」


「言い訳するつもりもないけどね」


先生は親気分で私の手をとったつもりかもしれないけれど、誰もそうは思わない。不純異性交際?なんて非難されてしまうのかな。

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