雨宿り〜大きな傘を君に〜
ハートのオブジェの近くまで来た。
写真を撮るために随分と長い列ができている。
せっかくイルミネーションを見に来たのに、私たちに笑顔はない。
「ハナちゃん。言いたいことがあるなら、はっきり言って」
「…先生が、私のためにご自身の人生を犠牲にしているようで、時々苦しくなります。私をいくら家族と呼んでくれても、血の繋がりはないのですから、そこまでよくしてもらう理由はないです」
「そんなに血の繋がりが大事?家族って、心の繋がりだけではなれないもの?」
「…私には、先生のことをお兄さんとは思えないので……」
ハートのオブジェがピンク色に光り始めて、視界がパッと明るくなる。
「綺麗だね」
上がった歓声に反応して菱川先生もオブジェに視線を向けた。
「綺麗ですね」
「俺たちも並ぶ?」
どんなに私が強い口調で言っても、ワガママを吐き捨てても、先生は変わらない。
優しい目で私のことを優先してくれる。
「此処のジンクスを知っていますか?」
「知ってるよ。ハート型のオブジェで写真を撮った恋人たちの愛は永遠でしょ」
「そうですか。先生はジンクスなんて信じないですもんね」
私は、占いとかジンクスとか結構本気にしてしまう方だ。神社で引いたおみくじの助言を真に受けてしまう性格だ。
「信じるよ。信じる者は救われるって言うし」
「……」
なにそれ。
知ってて写真を撮ろうだなんて、酷い人だ。
優しさは時に人を傷つけるものなんだよ、先生。