雨宿り〜大きな傘を君に〜
崎島の目が見開く。
「認めるとは思わなかった……」
「崎島には嘘はつきたくないから」
「なんで菱川先生?生徒には無関心で冴えない野郎だぞ」
「最初から菱川先生の授業は好きだった。それに優しい人だと気付いてしまったから。ーー好きになってしまいました」
「…俺じゃ、ダメか」
辛い。こんな私を好きだと言ってくれる人は、崎島くらいなのにね。
「家族を失った寂しさや虚無感を俺なら本当の意味で理解してやれる。同じ年だから、受験とか就活とか共通の悩みをもって支え合っていけると思うーー俺に、しとけよ」
揺れる瞳。
不安げな表情を浮かべる崎島を初めて見た。いつだって彼は自信家で完璧なのに。
「ごめんなさい。私は先生に愛されること以外はなにも望んでないの」
「……」
私の気持ちを全て理解してくれなくていい。ただ哀しい時に先生が傍に居てさえくれれば、それだけで十分なのだ。
「俺には、大野しか居ないのに……」
弱々しく吐き出された言葉に、胸が震えた。
分かるよ、崎島。
菱川先生のことを好きになる前は、私も同じだった。
私には母しかいない。
だから母が亡くした私はもうなにも持っていないと思っていた。
夢も希望も、将来も、捨てたつもりでいた。
幸せになんてなれないと思ってた。
「そうやって殻に閉じこもることを、私は止めたんだよ」