雨宿り〜大きな傘を君に〜
きっと崎島にも明るい未来を信じられる日がくるよ。
「何もないなんて言わないで、何かを見つける努力をしないと。幸せなんて訪れない。偉そうなことを言ってるかもだけど、本当にそうだよ。俯いているだけじゃ、何も見えないよ」
「…なんだよ、それ」
「私だけでなくて、崎島にはあなたのことを大切に思ってくれる友達が沢山いるでしょう。でも彼らと自分の世界は違うから。そんな風に勝手に感傷に浸っているなんて勿体無いよ。私も崎島のことを壁の向こう側の人だとずっと思っていたけど、今は違うから」
「俺が両親を亡くしたことを話したからだろ」
「ううん。確かにきっかけではあったかもしれないけれど、そんな悲しい共通点がなくても、私たちは友達になれたと思うよ。絶対になれたよ」
前のめりで崎島に伝える。
友達以上のことを私は崎島にしてあげられないけれど。ひとりぼっちの苦しみや辛さを共感できるからこそ、崎島に分かって欲しい。
大切な友人で居たい。この先もずっと。
「……そうだな」
しばらくして寂しそうに崎島が笑ってくれた。
「崎島の気持ちに応えられなくて、ごめんなさい」
すごく嬉しいのに。
私は菱川先生のことしか考えられない。
「分かったよ……ほら、仲直りの握手」
無理矢理に笑ってくれた崎島の手に、自分のそれを重ねる。
先生よりも小さい崎島の手は温かかった。