雨宿り〜大きな傘を君に〜

「私には理解できませんでした。結末が好きでないです。女の人が雨の中佇んでいるところに、たまたま男の人が通り掛かるシーンから始まるので、私、少し重ねていたのです。先生との始まりの日と」


信じていた親友に裏切られて傘もささずに大雨の中、泣き崩れる女の人に傘を差し出す男の人の描写は優しくて美しくて、菱川先生みたいだと思った。

ヒロインの名前は、ミドリ。
ヒーローの名前は、ゴウだ。

「いくつかの生涯を乗り越えていく2人を見て勇気をもらえました。でも最終的にはミドリが恋に冷めてしまって、2人が別離を歩む姿は共感できませんでした。強引に止めない男の人の気持ちも分かりません」


「残念ながら、高い確率で恋愛は冷めるものだよ。出逢った頃のまま、薄まることない愛情を互いに抱えて生涯を寄り添えることなんてレアケースだと思う」


菱川先生は本をパラパラと捲る。


「この人だと思っても、別の誰かに恋することもあるでしょう」


「…はい」


「心変わりは当然のことだよ」


先生はやっぱり大人だ。
登場人物の心情を読み取れているんだ。



「でも可能性は低くても、永遠の愛だってあると思います。結婚して家族愛に変わることも、互いを嫌いになることもあるかもしれないですけど。色々あって互いを1番に考えられない時期があったとしても、おじいちゃんとおばあちゃんになった時に"一緒に生きられて良かった"そう思えたなら、それは永遠の愛です」


少し前まで恋愛のことなんてなにひとつ分からなかったし、結婚するつもりさえなかったのに。偉そうに語っている自分がおかしい。
語れるほどまでに恋や愛について考えるきっかけをくれた菱川先生にだけは、分かって欲しい。

私の考えを押し付けるつもりはなく、ただ先生の恋愛観を知りたいだけということを。

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