雨宿り〜大きな傘を君に〜
先生を見上げると、目が合う。
「ハナちゃんのその考えを、永遠の愛を信じられる純粋さを、最初は若さゆえのものだと思ったよ」
"若さ"
年の差を感じさせる単語。
たった10歳しか違わないのに、先生にとってその差は大きいのだろう。
「君はまだ高校生だから、少し大人に見える俺に好意を寄せているんだって。ミドリのように、いつかは冷めてしまう感情だと思った」
目を逸らしてしまえば先生の言葉に傷付いていますと伝えてしまう気がして、そのまま見つめ続ける。
「だから俺はその純粋な想いに心動かされることなく、冷静に、君が望む限り傍に居ようと思った。君が別の誰かを愛するその日まで、寄り添う覚悟はできていたんだ」
先に目を逸らした先生は苦笑いを浮かべた。
「いつか君が俺を捨てる未来が見えているのに、俺はハナちゃんを好きになることなんてできない。俺だって、傷付きたくないからね。だから、ハナちゃんを好きになる可能性はないという言い方をした。俺にとってハナちゃんは、本気で愛してはいけない相手だから」
「そんなこと…」
「ハナちゃんに溺れて、いざ君が他の男を連れてきた時、手放せないようではダメだと思った。君の選んだ未来を快く応援できないような男にはなりたくないと思っていたんだ。でも、」
言葉を切り、先生は笑った。
「そんな大人ぶった考えで居られる自信は、もうないよ。本気で君に溺れたみたいだ」
溺れる?それって、ーー
「君はミドリでないし、俺はゴウでない。出逢いは似ていても結末は同じだとは限らない。そんな風に思えるようになった。結局、色々と言い訳を重ねて、自分を守りたかっただけみたいだ。本気で君を愛することから逃げていただけだ」
先生の言葉に聞き入る私の頭を撫でてくれた。
そして、その広い胸に抱き寄せられた。