雨宿り〜大きな傘を君に〜

大人な余裕が悔しくて睨み付ける。
けれどそれは逆効果だったようだ。
涼しい顔をして先生はさらに意地悪なことを言ってのけた。


「もう何年もご無沙汰だから、激しくしたらごめんね」


「……」


「…その代わり卒業するまで、一線は越えないと誓うよ。キスもお預けだね」


おちゃらけた声色が、真剣なものへと変わる。



「それが君の先生として、大人としての誠意だよ」


キス、はしたい。
もっと、触れて欲しいのに。


せっかく想いが伝わり、先生の気持ちも聞けたというのに。今まで通りの距離感は寂しい。


それでも私のために菱川先生がそうするというのなら、聞き分けよく受け入れるべきだよね。


「もちろん君が俺に触れることは全然構わないよ。寂しくなったらいつでも抱き着いておいで」


そんな私の心の葛藤などお見通しのようで、先生は付け足してくれた。


「ギュッってしてくれますか?」


「いくらでもするよ。ただし、俺の唇は奪わないでね。君の唇を奪うのは俺の役目だ。それにこっちの理性が崩壊したら、ハナちゃんが困るだけだよ」


「了解です」


恥ずかしくて事務的な返答しかできなかった。


やっぱり10歳の時の差は偉大だと、感心してしまったのだ。

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