雨宿り〜大きな傘を君に〜
次のお休みの日、緒方さんの論文の発表会に出席した。
大学の敷地内にある大きなホールが満席になり、堂々と壇上に立つ緒方さんのスピーチに聞き入っていた。
初めて仕事をする緒方を見たけれどいつもの気怠げな空気は一切なく、改めて凄い人だと感じた。
「難しいテーマのはずなのに私でも理解できるよう説明してくれて、感動しました」
「どーも」
控え室で来る途中に買った花束を渡したけれど、少しも嬉しそうでなかった。
「こういう肩が凝る仕事は勘弁だわ」
緒方さんらしいな。
「托人は?」
「去年、菱川先生の講義を受けていたという大学生が偶然、隣りに座っていて。緒方さんの論文について語り合ってましたよ」
「へぇ。少し不機嫌そうだから、女か」
「よく分かりましたね」
「一緒に住んでるんだから、多少のことは分かるよ…家族ってそういうものだろ」
家族。その優しい響きがくすぐったい。
「だからお前の父親代わりとして言っておくがな。決めたルール通り、成人するまでは家からは出さん。結婚でも好きにすればいいが、新婚気分は味わえないと思え」
「分かってますよ、おとーさん」
「はあ?気持ち悪い呼び方するな。鳥肌たったわ」
花束を突き返され、笑い合う。
菱川先生と選んだ綺麗な生花は、日の当たるリビングの窓際に飾ろうかな。