雨宿り〜大きな傘を君に〜
まだかつての教え子とお話をしている先生を遠巻きに見ていると、目が合う。
そしてすぐに話を切り上げて、私の元へ駆け付けてくれた。
「待たせてごめんね」
「いえ。緒方さんから食堂の無料引換券もらったので、食べて行きますか?」
「いいね。大学時代に戻った気分だよ」
「あ、そうですよね。菱川先生、ここの大学ですもんね」
私が未だC判定しかとれない、一流大学。
先生にはまだ伝えていないけれど、実は第1志望だ。合格すれば菱川先生の後輩になれるし、緒方さんの講義を受けられる特典付きだ。
「母校の食堂に、ハナちゃんといるって不思議な感じだな」
迷わず食堂に辿り着いた先生はメニューを見ながら言った。
「俺はハナちゃんとキャンパスライフを一緒に送ることはできないから、今日はさ、お互いに大学生になった気分で過ごそうか」
「すごく素敵ですね」
「じゃぁまず、呼び方から。大学の敷地を出るまで、俺のことは托人で」
「…急に難易度、高くなりました」
「恋人を名前で呼ぶくらい普通でしょ。俺はカツカレー。オススメだよ」
私も同じカツカレーを頼み、浮ついた気持ちで空いている4人掛けの席に座った。