心の中に奏でる、永遠の向日葵
「うーん。やっぱり、目が見えなくても感じるね、このコンクールの雰囲気」
向日葵が、いつもよりも声を小さくする。
「だろうな。なんていうか、静かなのに、熱気があるっていうかさ」
「うんうん。私もよくコンクールは見に行ってるんだけど、いつもこんな感じだよ」
コンクール、よく見に行ってるのか。
じゃあもしかしたら、俺が出たコンクールにも、来てくれたのかな、と心の中で思った。
「向日葵は、コンクールに出たことはあるのか?」
向日葵が、一瞬そっぽを向く。が、すぐに首を横に振った。
「ううん。あんまり出たことはないな。どうなの?気分は」
「そりゃあ、どんな小さなコンクールでも、緊張はするな。特に、全国コンクールの時なんか、指がバカみたいに震えちゃってさ」
「うわぁ、たいへん。っていうか、私の場合は、全国に行ける実力も精神力もないけどね」
向日葵は冗談めかしにそう言って笑うが、実力ははっきり言って、全国レベルだと思う。
そこで、照明が暗くなった。司会の人が、舞台に登場する。
「これより、岸田ピアノコンクール ソロ部門を開催いたします」
ああ、おなじみだ。
何度も何度も聞いた、このアナウンス。でも、観客席から聞いたのは、初めてかもしれない。