心の中に奏でる、永遠の向日葵
「ソロ部門 一番。加藤久美子(かとうくみこ)さん。自由曲は、ショパン作曲 ワルツ第一番 変ホ短調 『華麗なる大円舞曲』です」
華麗なる大円舞曲。魅了的で、華やかな曲調のこの曲は、ショパンが遺したワルツ作品の第一作。
司会の人がドアから消えていくと同時に、真っ赤な布にいくつもの花を添えたドレスを身にまとう、高校生くらいの女の子が出てきた。
彼女は、椅子の高さを座っては何度も調節し、鍵盤をハンカチで拭く。
俺と全くおんなじ行動をとっていて、思わず苦笑した。
ようやく椅子に座ると、膝の上で少し指を動かし、鍵盤に手を乗せた。
そう。この、指を乗せてから、曲がスタートする間までの、異常な静けさ。
この時間が、俺にとっては一番緊張する時間だ。
彼女は、一度大きく息を吐くと、右手の指を動かし始めた。
最初は、シのフラットを連打。そして、左手がワルツのテンポをキープし、右手が曲を奏でる。
ホール中に、ピアノの音が響き渡る。終始明るいこの曲調からは、ショパンらしい華やかさを感じさせた。
しっかりと強弱がつけられ、ミスもない。なにより、表現力が素晴らしかった。
音とともに体を動かす彼女の姿は、音を感情にし、音と共に、それこそワルツを踊っているように見えた。
そういえば、あんまりピアノのコンクールというものを、じっくり鑑賞したことはない。
あるといえば、俺が弾く一個前の人のピアノを、緊張をほぐすために聴いたりとか、相手のピアノを聴いて、自分の戦略を練るとか、それくらいだった。