檸檬の黄昏
耕平の車は郊外のコイン洗車場に到着したが、暑い日中のせいか誰も利用者はいなかった。
耕平は車を停車させると二人は、耕平が先ほど道の駅で購入した弁当で簡単に昼食を済ませる。
それが済むと耕平はトランクからバケツや洗剤を取り出した。
「洗車機じゃないんですか?」
「何のためにあんたがいるんだ。手洗いだ」
「ええ~」
「さっさと始めるぞ」
耕平がコインを入れてシャワーを使い車を濡らす。
茄緒がブラシでタイヤとホイールをこすっていると、上からシャワーの水が降ってくる。
「冷たい!」
「悪い」
耕平の声が向こうから聞こえてきた。
しかし、また降ってきて茄緒は確信した。
「わざとですよね、耕平さん!」
「やっと気がついたのか」
茄緒がブラシを持って耕平を追いかけシャワーを奪い、耕平にぶっかける。
耕平はバケツで応戦し洗車を終えた時は、ふたりともずぶ濡れだった。
完全に子供の水遊びと同じである。
耕平の小学生並の妨害に合いながら、それでも茄緒は生真面目にシートに掃除機をかけ車の清掃を終わらせた。
「これで約束は守りましたよ」
茄緒が汗をタオルでぬぐう。
髪もずぶ濡れのままだ。
「よくやった」
同じく濡れ髪の耕平が首からタオルを下げ、口を開いた。
「はあ。ちょっと涼しくなりましたね……」
陽が少し傾いてきている。
茄緒は濡れた髪のまま、空を仰ぐ。
ドキリとする美しさだ。
耕平が目を奪われていると、茄緒が視線に気づいた。
「濡れ髪の耕平さん、セクシーです」
茄緒は笑い、綺麗になった車を観察している。
車のエンジンをかけ冷えすぎない程度にエアコンをかける。
耕平は電子煙草を吸っている間に茄緒はスマホを取り出し、海釣りの予約状況をチェックした。
来週の土日、船釣りの予約が可能だ。
竿、えさなど必要なものは用意してくれて本人が行くだけである。
しかし、ある条件が足りない。
外で煙草を吸っている男を見る。
煙草を終えた耕平が運転席に戻ってきた。
「耕平さん、来週の公休日はジムですか?」
「まあ、そうだな」
「……あの、海釣りに行きませんか?」
耕平が茄緒に顔を向けた。
「船釣りの予約をしたいんですけれど、二人以上じゃないと駄目みたいなんです。もし良かったら、と思ったんですが」
茄緒はなんとなくあきらめモードである。
船が駄目な場合、堤防釣りにしようと思っていたのだが。
「いいぜ。付き合ってやる」
「本当ですか!やった、ありがとう耕平さん」
茄緒は嬉しさと喜びで満たされた笑顔だった。