ひと雫おちたなら

─────いや、本来、女ってこんなものかもしれない。
彼に渡された番号に連絡してしまったのも、会いたいと思ってしまったのも、どこかで聞いたことのあるあの安っぽいフレーズを思い出してしまったからだ。


「運命なのかなって思っちゃった…」

「え?」

少しびっくりしたように眉を上げた睦くんは、同時に私の肩をつかんでいた手の力を緩めた。

「たまたま大学の近くのカフェで、私の絵を見つけたの。うたた寝してるやつ…」

「…あー!昔、よくお世話になったところだ」

「それを見つけた日から、なんだか睦くんのことばっかり思い出しちゃって。それで、この再会でしょ。…運命かと思うじゃない」


自分でもだいぶ恥ずかしいことを言っている自覚はあった。

恋愛の酸いも甘いも、この歳になればたいていのことは分かっている。運命なんて言葉で片づけられるような、甘ったるい恋愛なんてあるわけないことなどとうに気づいている。

それでも、ちょっと信じてみたくなったのだから。
恋って盲目だ。


すると、ふわりと睦くんの両腕が私の身体を包む。
強くきつく、ではない、優しく囲うような。


「白状すると、前任の澤村さんには全部言ってある。その上で、産休に入ったら後任は俺で、って約束したの。澤村さんに色々聞かれなかった?恋人はいるかとか、そのあたり」

「ええ?聞かれたような…あんまり覚えてない。澤村さんもグルだったの!?」

「うん。まあ体調崩しちゃって早めの産休になったから、予定は狂ったけど」


呆気にとられている私をよそに、睦くんは身を屈めて私の肩に頭を乗せた。

「だからね、俺たちのこれは運命の再会じゃなくて、必然なんだよ」




“必然”って、“運命”よりもずっと破壊力がやばくて、こんなにも心が揺さぶられるものなんだ。


私はそのまま、ぎゅうっと彼の背中を抱いた。





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