キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
7-5
最後にもう一度、お兄ちゃんが安らかに眠れるよう、二人で静かに誓った。

車を停めた駐車場まで手を繋がれて歩きながら、ミチルさんが涼し気に言う。

「どこかでランチして、その後デートしようか」

市役所を回ってきたから、そんな時間になってた。
いきなりのデートの三文字が心臓を直撃して、機能が一時停止しそうになる。
『出かけよう』は日常茶飯事だけど、家族のお出かけみたいなもので。
ちょっぴり女の子扱いを混ぜてくれてるのは、結婚にくっついてきたオプションなのかな。・・・なんて、内心にやけ気味。

今にもだらしなく緩みそうな表情筋を懸命に引き締めつつ、晴れやかに笑い返せば。

「せっかく可愛いりっちゃんと、食事だけじゃ勿体ないからね」

そこいらのモデル顔負けのイケメンさんに、甘い微笑みで瞬殺された。
三年も一緒に暮らしてるのに、衰え知らずの破壊力に一向に慣れないのが困りものだ。

赤くなった顔を隠すように落とした視線の先には、ローズピンクのパンプスの爪先。着け外しも出来る、ラインストーンで模られたリボンが気に入って新調した。
選んだ甲斐があって良かった。気分も舞い上がる。

「たまにはフレンチもいいかな。ちょっとドライブして」

そこまで言いかけたミチルさんの声が不意に途切れ、何気なく隣りを見上げた。
立ち止まった足。一点を見据えるその眼差しを。一緒に辿る。

繋いでる指先に力を籠めたのは、あたしだった。
握り返された強さに、お腹の底がきゅっとした。

大丈夫。
言い聞かせてもっと強く。ミチルさんの手を握った。
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