キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
闇色の眼差しを細め、おもむろに淳人さんが続ける。

「菅谷はお前に話したのか」

話したって、・・・何を?
唐突すぎる問いに、戸惑いの視線を傾げるだけのあたし。

「志室が死んだ日のことを、だ」

「お兄ちゃん・・・?」

「あの日どうして志室があの場所にいたのか。お前は何も知らないだろう」

淡々とした口調で。感情の見えない表情で。淳人さんはそう言った。

「え・・・。仕事帰りに、飲みに行ったんじゃ・・・」

ぼんやり呟く。
地元にももちろん、お兄ちゃんが行きつけのお店はあった。
事故に遭った繁華街は、あの頃住んでたアパートからは車でも30分以上はかかるけど、割と大きくて有名だったし、寄って帰ることだって珍しくなかった。
だからあの日だって別に。いつもみたいにラインが来てて、『飲んでく』って。

「そうだな。・・・だが偶然じゃなかった。あんな事故で死なずに済んだかも知れん。菅谷がリツに黙っていることを知りたければ、俺が教えてやる。・・・と言ったらお前はどうする」


澱みない眼光を真っ直ぐに放つ、淳人さんの眼に吸い込まれて。
束の間、言葉も。・・・呼吸も忘れた。
< 168 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop