12月の春、白い桜が降る。
この映画は地味で平凡でパッとしない成人男性と、
本を読むのが好きで小説家を目指す同い年の女性の二人の恋愛ものらしく、

そのぱっとしない男性は電車内で彼女と出会い、高校時代の同級生だと言うことに気がつく。

彼女はその頃、一切口を聞かずただただ本を読んでいる少し独特な雰囲気を持っていた。

だがその男性はその姿にどこか惹かれてしまい、高校時代はずっとその女性に片想いをし、

とうとう思いを告げられぬまま卒業してしまう。

なんと降りたのは同じ駅で、その男性は勇気を振り絞って声をかけてみるも、
女性の方はまるで覚えていないような素振りを見せる。

男性は落ち込むが、小説家を目指すその女性は手を顔の前まで上げ、
耳を指さしてから口の前で、右手と左手の人差し指で“✕”の形を作った。

実は産まれてすぐからずっと耳が全く聞こえない聴覚障害者だったのだ。

周りの音を一切聞いたことの無いその女性は、音楽を聴いたり人と会話することが出来ない上に、

小説を書く際に“音”についての表現をどうしても表すことが出来なかった。

途中で挫折しかけるが、その男性が隣に付き添い、いつも音についての表現の説明をした。

一生懸命手話を勉強して半年で普通に会話できるぐらいまで上った時、聴覚障害者の女性は初めて声に出して「ありがとう」と言葉にした。

密かに言葉を発する練習をしていたのだった。

そのシーンは普段どんなに感動する映画でも涙を流したことのない僕でも、

涙がこぼれ落ちそうになってしまった。

隣にいるひなたは大号泣で、とても感情移入しているようだ。

…彼女が死んだ時、僕は涙を流すのだろうか。

一瞬、そんなことを思ってしまった自分が惨めで、
改めてずっとこれからも一緒にいよう、と心に誓った。
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