やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~

時計は、5時を回っていた。
私は、帰り支度をしながら彼を待った。もう少しだけここにいよう。
メモを用意して、時間になったら机の上に貼っておく。そして、6時を過ぎたらオフィスを出ることにしよう。簡単なことだ。

町田部長は、時間ギリギリになってオフィスに戻って来た。
「やっと抜けてきたよ。まったく。金曜日だから、付き合えってうるさく言われてね。
上役の誘いを振り切るのに苦労した」
部長は、私の行動を予測しているみたいに急いで帰って来た。
息を弾ませて、額にうっすら汗まで書いている。いつも余裕で、慌てたりしない人が、急いで戻って来るなんて。
想外だった。
「無理して帰って来なくても良かったのに。私は、別の日でも良かったですし」
「そうもいかない。誤解は、早くといた方がいい。唯一の部下とギクシャクしたままじゃ、やりにくいからね」
これまで、ずっと私のことを無視してきたのに。
彼は、まるで、気持ちが入れ替わったように私を見て微笑んでいる。

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