やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~

「この間の、お礼だって?」
課長は、いったい何を言い出すんだ?
という視線を送ってきた。
課長の表情が疑わしさでいっぱいになる。
「お前、本当に俺にお礼を言いたいと思ってるのか?」
「はい」
そんなに驚くようなことかな。私は、彼の反応に構わず、言おうと思ったままのことを話しただけなのに。

課長にしては珍しく予想外の展開らしい。
珍しく眉間にシワを寄せて、考え込んでいる。
私の話が読めないことに、いらだっているようにも見えた。

さすがの課長にも、私の行動が読めなくて困ってると思うと勇気がわいてくる。
私は、気を良くした。
「いきなり、何を言い出すんだ君は」
課長は驚きを通り越して、更にムッとした顔で聞き返してきた。
「な、何でそんなに驚くんですか?」
「お前こそ、昼間っから何いだすんだ」
下を向いたままだったので、彼がどんな顔をしていたのかわからない。
さっきのお返しです。今度は、私の方があなたを慌てさせてあげる。

「お礼って、何に対してだ?」
口元にこぶしを軽く当てて、考え込むのはいつもの彼の癖だ。
「何にって、家まで送ってくれて。いろいろと世話をしてくれたことです……」
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