旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです



「なんで、とか聞いてもいいですか……?」

「なんでって、そうだな。ありのままを見せたから、だろうな」



ありのままを?



「一年くらい付き合って、結構本気だったから。本当の自分を知ってほしくて、素で接した。そしたら、『嘘でしょ、王子の姿が好きだったのにありえない』ってさ」

「ありえない、って……」

「やっぱそうだよなって分かってたけど、言葉にされると結構刺さったな。で、結局それから上手くいかなくなって別れた。彩和と似たような話だな」



津ヶ谷さんはそう言って、乾いた笑いをこぼした。



恋人に素を見せて、拒まれた。

それは、過去の私と同じ傷。

自分自身をわかってもらえないつらさ。

それに、相手が見ているのは所詮都合のいい上っ面だけだと知ってしまった悲しさ。

それらがわかるからこそ、この胸がぎゅっと締め付けられる。



もう過去のこと、と笑う彼を目の前に、私が泣きそうになってしまう。

それをぐっと堪えるけれど、涙を我慢しているのは津ヶ谷さんの目から見ても明らかだったのだろう。彼はギョッと驚く。



「な、なんだよ。泣きそうな顔して」

「だって、津ヶ谷さんの気持ちを思うと……」

「別に、彩和みたいに引きずってない。大丈夫だって」



そんな私をなだめるように、彼は私の頭を撫でた。そして困ったように小さく笑う。



津ヶ谷さんは以前私が泣いたときに、『つらいよな』って、気持ちを理解してくれた。

それはきっと、彼自身も同じ気持ちを感じた経験があったからだったんだ。



どうして乾さんは、ギャップひとつだけで彼を拒んでしまったのだろう。

こんなに優しい手をした人なのに。

なぜ、本当の彼を見ないのだろう。





< 118 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop