旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです



「えっ、いいんですかぁ?でも桐島さんデートの約束とか……」

「いえ、今日は特には予定ないので。大切なデートなんですよね?楽しんできてくださいね」



本音を全て隠した、うわべだけの言葉。

嫌味のひとつでも付け加えたくなるのをぐっとこらえる。



「ありがとうございます〜!さすが桐島さん!」



そんな私の本音に一切気づくことなく、女性社員は拝むように頭を下げた。

そのやりとりの中、視界の端に入る津ヶ谷さんはこちらに興味なさそうに自分の仕事に取り掛かっている。



……だけどちゃっかり聞いていて、バカだって思っているんだろうな。

仕方ない。だって、完璧でいれば否定されることもない。

だけど外面という仮面を一枚被って、また更に被って、呼吸がしづらくなっていく。



『自分の首絞めることになるぞ』



その言葉が、とてもしっくりくると思った。





それから、自分の仕事を片付け、彼女の分の仕事に取り掛かる。

データをまとめ、資料作成、印刷……そしてそれを数枚ずつまとめて一冊の本にする作業まできた頃には、オフィスにはすでに自分の姿しかなかった。



女性社員はもちろん、他の社員も皆そそくさと帰ってしまった。

津ヶ谷さんも気づいたらいなかったし、多分外回りから直帰するんだろうなぁ。



夜10時を指す腕時計を見て、辺りを見回すと、室内はしんと静まり返っている。

誰もいない部屋の奥の方は電気が消されており、薄暗さがちょっと不気味だ。



夜のオフィスって、幽霊出そうで怖いな。映画とかでも定番のシチュエーションだし……。

以前見たホラー映画のワンシーンを思い出してしまい、ゾッと寒気がした。


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