旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
毛先を巻いた茶色い髪と、淡いミントグリーンのスカートの裾を揺らし、廊下を歩いていく。
たったそれだけの動作に、すれ違う人々の視線がついてくるのを感じた。
その度また、背筋がピンと伸びる。
年上の御曹司と同棲なんてしていない。
年下の男子大学生なんて飼っていない。
大きな契約は、たまたま向こうの需要とこちらの条件が合ったから成立しただけ。
なのに、なにも知らない周囲は勝手に話を作り上げて、好きなように触れ回る。
その結果、いい意味としても嫌味としても、『完璧女子』という称号がついてきた。
その度私は思うのだ。
人の噂はあてにならない。
だけど今日も、私の外面は皆を上手く騙せている。と。
日本橋にある会社を出て、寄り道もせず一直線に中野にある自宅へ帰る。
駅からほど近い5階建てのマンションは、広々とした1LDK。
オートロック完備で近くにコンビニもある、ひとり暮らしにはピッタリの物件だ。
会社からやや距離はあるけれど、その便利さと安心面から即決めて入居してから3年になる。
なにより、人目が気にならないところがいい。
ここに帰ってきて、私はようやく本当の私になれるのだ。