旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
「……彩和。そこまで緊張されると俺まで緊張してくるんだけど」
そんな私を運転席の津ヶ谷さんは呆れたように横目で見た。
「わ、私だって緊張したくないですよ。でも、いろいろ心配になってきちゃって、 もしバレたらどうしようとか……」
「大丈夫だって。あ、でもお前嘘つくの下手だから、なにかあったらニコニコ笑って流しておけよ」
「うっ……はい」
そんな会話をしながらやってきたのは、神楽坂にある料亭だった。
駐車場から少し歩いた先にある、大きな門をくぐると、着物姿の女将に出迎えられた。
「本日予約した津ヶ谷ですが」
「津ヶ谷さまですね。こちらのお部屋でお連れ様がお待ちでございます」
長い廊下を歩いて案内された先で、開いた戸の向こうには、ふたりの姿が見えた。
横長いテーブルに並んで座るのは、50代後半くらいの男女。
派手な赤いシャツを着た、ベリーショートの髪型の濃いめのメイクの女性と、質のいいスーツに身を包んだすこし垂れ目がちな男性という真逆なふたりが津ヶ谷さんのご両親なのだとすぐに分かった。
「遅かったわね、愁」
津ヶ谷さんのお母さんは、じろ、と津ヶ谷さんを見て言う。
その視線の鋭さとツンとした言い方に思わず怯んでしまうけれど、津ヶ谷さんは慣れたようににこりと笑って答えた。
「すみません。少し道が混んでまして」
「混雑も視野に入れてもう少し早くに出るべきだったんじゃないの?」
き、厳しい……。
会って早々のギスギスとした空気に、女将は遠慮がちに部屋を出た。
日差しがあたたかく照らす、広々とした和室に私たち4人だけになったところで、津ヶ谷さんのお父さんはにこりと笑って口を開く。